シロナガスクジラスイム記@スリランカ3日目
顔が痛い。クジラに叩かれたわけではなく、単に日焼けだが。 スリランカ3日目、やっと海に出た。
6時ごろに起きてしまいテラスに出ると、隣の部屋のYさんとばったり会う。やはり早く起きてしまったようで、すでに準備万端だった。楽しみだねと言い合いながら、早く起きてしまったと笑った。
船出は7時。船というよりボートというくらいの船が海岸に待っていた。その会社のオーナーらしいラリーさんと挨拶をすると、手に水をすくって何か持ってきてくれる。よく見ると小さなエビのようなものが何匹も見える。オキアミだ。「こいつをシロナガスクジラが食べに来るんだ。」と教えてくれた。
しばし船出を待つ。船の舳先に人の目が書いてあるのを見ていたら、近くの若い男の人を指差す。この人の顔だというらしい。指された男の人は、ものすごい照れて、いや違うんだラリーは頭が変なんだみたいなジェスチャーをしながら逃げて行った。顔は絵と似ていたような似ていなかったような。
さて、出発だ。クジラのポイントは二つあるらしく、崖の先、先々週とても多くのクジラがいたポイントに向かうことになった。一時間ほど船を走らすと、案内役のMさんが「いつ出てもおかしくないところに入った」と言った。するとしばらくして、船長が何かを指差す。クジラの背と上がる飛沫。クジラの息継ぎ、ブローだ。背中が黒い。ニタリクジラ。急いで海に入り、並走するように泳ぐ、が、行ってしまった。水中では見ることができなかった。
その後なかなか現れない。魚もおらず、海の様子も先週とは変わっているらしい。諦めてもう一つのポイントに行く。ただしそちらには他の船もいるらしく、クジラが逃げがちだという。確かに他の船が何隻か見える。同じような小さめの船が遠くに2・3隻。スイムの船も水上からの見学の船もあるようだ。船を止めてしばらく待つ。
しぶきが上がる。いた。クジラのいく方向に先回りし、水中に入る。顔を水につける。いる。全身が見える。距離は7mくらいだろうか。青い中に巨体が灰色に浮きあがって見える。ザ・クジラだ。はじめシロナガスクジラと言われていたが、実際にはニタリクジラだったようだ。
その後もニタリがぼちぼちと現れる。豊かな海域だなぁなどと思いながらぼうっとしていると船長が叫ぶ声が聞こえた。「Blue whale!」。シロナガスクジラだ。背中の水面から出ている部分が前から後ろへと移動していくのだが、その時間が長い。大きい。水中で見るシロナガスクジラは白く、ゆっくりと動いていていた。感動して気がつくと涙が溢れていた…ということはなかった。意外に大きく感じないな、というのが初めに思ったことだ。距離がそう近くないせいだろうか(どれくらいだろう?12mくらいか?)。小さめの個体だったのかもしれない。今思い返すと美しかったなあと思う。
その後もニタリにもシロナガスにも何回も遭遇しアプローチした。警戒されたようで、近くに行くと旋回したり潜ってしまったりと、そこまで近ずくことはできなかったが、しかし本当にクジラが多い海域だ。数匹集まっていることもあった。水中に入ったおは10回くらいだろうか。ただ、11時頃になると静かになり、あまりクジラは姿を見せなくなった。
一番よかったのは、私たちの真下に潜っていった時だった。自分の下をゆっくりと通っていく体は、通るのにかかる時間の分だけ巨大に感じられ、徐々に青く消えていく様子は、深く広い海が彼らの住処であることを認識させた。
もうひとつ思いがけなく良かったのは、漁師さんたち。イルカの群れが追い立てる魚の群れの前を走り、仕掛けで釣っていく。走る船とイルカの群れ、そして弾丸のように海に飛び込む鳥達。それぞれが生きるために同じ魚の群れを追いかけている。イルカと一体になった漁の仕方はこの海で生活するものの知恵と歴史を感じた。
帰って、Yさんと海を見ながらカレーを食べ、ビールを飲む。部屋に戻って写真を見てみようと思ったら爆睡してしまっていた。ご飯を食べに行き時間を寝過ごし、Uさんが起こしに来てくれたので目が覚めた。皆で今日の感想などを話す。Uさんは明日から乗船なのだが、「シロナガスクジラと泳いだら人生が変わりそう」「初めてクジラを見て人生が変わったから」「夢って実現するんだなって思えて」と言う。そんなもんだろうかよくわからんなと思いつつ少しうらやましいような気もする。私の人生はクジラを見たことではあまり変わらないだろう。クジラにあっても変わらない人生とクジラにあって変わる人生だったら変わる人生の方が楽しそうな気もするし、そんなことで変わる前人生はそれまでがあんまり面白くないんじゃないかという気もする。まあ、日常に直接的な変化がないのであれば(それがきっかけでクジラの写真家になったとかだと日常からガラッとかわるがそういうわけでない限り)、クジラにあっても変わらない人生とクジラにあって変わる人生は、つまるところ一緒なんだろう。どう思うか、どう思いたいかだけだ。
ちなみにアーユルヴェーダの歯磨き粉というのは、インド?のヴェーダ科学という考え方に基づいた、歯磨きということで、ハーブとかでできた歯磨き粉のことらしい。