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セリグマンの犬の脱出―escape of Seligman's DOG―

リモートルームで専業主ふや産前産後の苦しさを減らす(そしてさらに)

qiita.com

この前littlebitsAdventCalender2016に記事を書いた。技術的にはslackからlittlebitsのサーボを遅延少なく動かす、というもの。目的は、ビデオチャットでつながっている家のカメラを動かすこと。このビデオチャットで家と家が繋がった状態のことを勝手にリモートルーム(前はハウスと呼んでたけど変えた)と呼んでいる。リモートルームはもっとうまくいく仕組みにしてもっと広がればいい取り組みだと思っている。

なので、なぜこんなことを始めたのか、どんな感じなのか、どういう可能性を感じているかについて少し書きたい。

なぜ始めたのか

私は今年の春に仕事をやめ無職になった。それでいきなり家にいる時間が増えた。会社にいるころは人がたくさんいて「仕事以前にあんな人がいっぱいいるところに行くのがいやだ」とか思っていたのに、いざずっと一人でいると、さみしい。厳密にはI miss you的な感情を揺さぶられるようなさみしさではないのだが、なにか些細な面白い出来事(例えば畳もうとした洗濯物のタオルが完璧にインターネットエクスプローラーの形になっていたとか)があった時にそれを共有できる人がいない残念な気持ち、一人だなーという自覚のようなものか。一人旅ではおなじみの感情だし、嫌いな感情ではないのだが、しかし一日の大半をそうやって過ごす日がずっと続くとだんだんと澱がたまるように倦んでいっていまう。話さなくてもいいのだが、話しかけられる位置に人がいることは、一人が好きな人間にとっても思ったより重要であるようだ。もしくは、単に刺激が足りないのかもしれない。部屋で過ごしていると、文字や視覚からの平面的な刺激が多い。他の人間は人間にとって最も刺激的なので、それがなくなることで刺激の総量が足りなくなってしまったのかもしれない。

そんなことを考えている時期、周りがどんどんと妊娠していたり出産したりしていった。その子らの話を聞いていると、妊娠中や子供が小さいうちというのはなんだかいろいろな種類の制限があって、家にいざるをえない時間というのが(人によっては)けっこうある、というのがわかってきた。そしてそこにあまり見えない種類の苦しさがあることもなんとなく伝わってきた。

そして数か月前、ある友人が妊娠し、だんだんとTwitterに苦しみの割合が多くなっていった。もともとガンガン仕事をしプライベートでも会を開いて人と交流していく、ついでに酒飲みの彼女は、しかし妊娠によって非常に行動を制限されているようだった。ただでさえ妊娠中はホルモンバランスが崩れ情緒が安定しなくなる上に、いっきに人との交流が少なくなったことが彼女を苦しめているんではないかと感じた。また、その苦しみのはけ口は唯一のリアルなコミュニケーション相手である夫に集中してしまいがちになる。直接苦しい思いを口に出すところまでいかなくとも「夫に話しかけたいことの量」は話し相手が外にいた時よりも増える。でも夫は今まで通り外で働いて人と話して、むしろ人と話すことに疲れている、そういうギャップから、夫への不満が拡大し、関係が悪くなりやすくなる。もしかするとそういうことも起こっているかもしれない、と思った。

他にも妊娠中や子供が小さい友人の「外に出たい、働きたい」「人と話したい」という声がSNSで目につき始めた。何かできないだろうか?そう思った時、夫の会社でやっていたリモートワークの様子がふと思い出された。会議用とは別に、会社に据え置きのWEBカメラがあり、そこは常にビデオチャットでつながっていて、人が来たときとか、話しかけたいことがあるときにはすぐに話しかけられる。ビデオ会議とはちょっと違う、よい体験だった。あれ、使えるんではないか?そう思った。それで、友人らに声をかけてやってみて、一か月くらいがたった。

どんな感じなのか

状態

  • 人数:4世帯がつながっている(1世帯は入院などで参加できていないので実質3世帯)。私(無職で専業主婦状態)と夫、妊娠中で自宅安静が必要な友人(とその夫)、クラフトビール屋の男性(子なし)、それと落ち着いたら参加してほしいなと思っているのがついこの間出産したばかりのの友人。いちおうそれぞれみんな知り合い。よく知っているわけではない、という感じ。
  • ツール:appear.in を利用。ハングアウトより複数人で繋いだときにみんなの画面が見やすいのと、アクセスや操作がしやすいと感じている。WEBカメラはうちはHD1080pというちょっとよいのを使っている。みんなはPCのを使っている。画質の悪さや遅延は一気にコミュニケーションの質が落ちるので気をつけたいところ。たまに聞き取りにくかったり遅延したりすることがある。
  • 利用の様子:平日の大体10時からよる19時位までを目安として、私の家は出かけていないときはできるだけつけている。そこにそれぞれ遊びに来るような感じ。妊娠中の友人はよく夕方につながって、羊毛フェルトを作ったり編み物をしていたりする。お互いなにか話しかけたくなったら話す感じで、結構もくもくと作業をしている。ビール屋の男性は話したいことがあるときに来ている気がする。あと家で作業しないといけないことがある時かな?あと夫が会社からつなぐときがある。会社の人で私を知っている人もいるので、ご飯タイムに少し話したりすることもある。誰もつながない日もぼちぼちある。かなりゆるい。
  • 運用的なこと:一応毎日つなぎ始めるときに「つけました」というのと外出などで早めに切るときはその旨をfacebookグループでお知らせしている。お知らせなしにつけていたこともあるのだが、どうも人が来なくなったのでやはり通知することにした。
  • ルール:ルールというほどでもないし明文化もしていないし必ずしも守っているわけではないが。気を付けていること。

    • 人が来た(つながった)時には挨拶をする

    • 1つなぎ一回くらいは話しかける

    • つなぐ人は基本マイクや映像は切っていてOK。ホスト側である我が家はできるだけつけておく。

感想

全体的にはよいと感じている。

  • やはり話しかけれるのはよい。あと、話さないでもつながっているだけで何かしらの心地よさがある。
  • ごはんをネット越しであろうと人と食べられるのがとても良かった。
  • 集中して作業しやすくなる。ある程度人の目を意識することと、他人が作業をする様子が見えることで、自分のやる気が出る。
  • 人の作業や家事が見られるのは面白い。羊毛フェルトとか作るとこ見たことなかったので新しいことと出会えていい。あと料理の様子とかも見るの楽しいし、情報交換的なこともできていい。
  • つなぐ以前より仲良くなった気がする。そもそもそんなに頻繁に連絡を取ったりする間柄ではなかっただが、以前より近くなった感じ(当たり前か)。
  • 友人からも「よい」と言ってもらえている。「生活音が聞こえるだけでなんかよい」という意見もあった。あまり彼らから感想を聞いていないのでもうちょっと聞いていきたいところ。

悪いところは、人がいるときにははばかられる行動や発言をしてしまって「やばっ」となることがあることか。まぁオンの時間帯は職場にいたり人が遊びに来ているときくらいに意識しておきたいところ。

どういう可能性を感じているか

まだまだうまくいっていない部分もあるが、このリモートルームには結構可能性があるのではないかと感じている。

まず、家に一人でいる人らのさみしさの緩和、それにより家庭や子育てがうまくいったり、前向きに何かに取り組めたりするエネルギーを得られること。 

そして妊娠~子育ての不安の解消や知識の共有。現代、当事者になるまで妊娠や子育ての知識や経験がない人が多いのではないかと思う。当事者になって初めて勉強したりするわけだが、そこにはやはり不安がつきまとう。また子供が生まれた後は忙しくてそこまでいろいろ調べたりする暇はない、でも気になることはいろいろある、という状況になりがちなようだ。そして、出産や子育ては様々な価値観に基づくいろいろな流儀があるのだが、その時に情報交換をできるコミュニティ(妊婦教室や保育園のお母さん会など)はこれまで築いてきた価値観の近い人間とは切り離されたばらばらな人間が集められたものである(それはそれで有用だとは思うけれども)。出産や子育てについて、これまでの価値観の近い人間とのつながりをベースとした情報交換ができるとよい。リモートハウスはそういった近い価値観の人間のつながりをベースと知った、出産や子育ての「予習の場」となりえるのではないか。リモートハウスには専業主婦や出産前後の人、自宅で働く人などが多くなるだろう。そこには「子供を産みたいと考えている人」「子供について考えるがイメージが持てない人」「妊娠中の人」「小さい子供がいる人」「子育て経験がある人」などがグラデーションで存在し、生活を一部共有することによって妊娠や出産に関する知識が自然に共有されることになるのではないだろうか。また、妊娠中や子育て中にできる仕事に関する情報やノウハウも共有できるようになるとよさそうだ。

最後に、薄い家族としての可能性。出産前後に限らないリモートハウスについて、少し未来に思いをはせた。私は家族とは血のつながりではなく一緒に過ごしたことによって規定されるものだと思っている。であれば、生活の一部を共有することが長期間にわたって続けば、それはもうある意味で家族となるのではないか。たとえそれがネット越しであろうと。もちろん従来の家族に比べて、空間の共有がない分薄い家族とはなろうが、そういう薄い家族がいることは、従来の家族や親類のつながりが薄くなった現代においては有用なのではないかと思う。

特に、生まれた時からずっと生活の一部を共有している子供がいる、ネット越しでも、というのは「新しいおじさん、おばさん的なポジション」になりうるんじゃないかと思う。このまま子供を産まなかったとしても、そんなネット越しの子供がいたらなんかそれでいいんじゃないかという気はする。逃げ恥(ドラマは見てないけど)の百合ちゃんとみくりみたいなかんじかな。

課題など

まぁいろいろと課題はあると思う。

  • 従来の血縁関係ではない間柄でリモートで家をつなぐことがどこまで広がるか。広げたいが、どうやったら広まるんだろうか。

  • また、現在は私の友人という範囲でやっているが、マッチングをどうするかという問題がある。全然知らない人間ではなく、友人や友人の友人くらいでマッチングできるといいのだが、そこをどうするか。少なくとネットだけでやり取りする前にリアルで一回くらいあっておいたほうがいいと感じているがそれは必要か。

  • 長期的にいい関係を気付くにはどうしたらいいか、立ち消えにならない仕組みはつくれないか。

  • 留守がわかってしまい悪用されることもあるのでは。

などなど。いくらでもありそう。

ただ、それまで持っていた関係の多くが一時的に絶たれてしまう時期において、孤立の緩和をするには確実に(というのは強すぎるかもしれないが)有用だ。ネットごしを主とした関係ではあるが、つながりと知識の共有によってリアルな助け合いも生まれやすいのではないかと想像する。ハッピーな人は増えると思うし、広げたい。これを読んで真似してやってみよう、とか、広げるのに協力してくれるっている人が少しでもいたらうれしい。もし質問とかあったら答えます。Twitterid:@interestor。

長寿と繁栄を。

おまけ

↓使っているやつ。カメラもマイクも調子はいい。 沖縄はたしかchromeboxでやってた。