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セリグマンの犬の脱出―escape of Seligman's DOG―

交通費変形地図について言いたいことを言っておく

はじめに

少し前に交通費変形地図というのを作ってみた。ほんとに作りたいやつのプロトタイプとして作ったのだが、思いの外拡散して、いろいろとコメントもあった。この、まぁ大体知り合いしか読んでいないだろうブログで言いたいことを言い放っておきたい。初めはグチとかを書こうと思ってたのだが、そのうちに「どうしてこうしたか」「どうしてこうなったか」というのについて延々と書く感じになった。

http://geodatavisualize.tumblr.com/post/149822189576/交通費変形地図都道府県ver
geodatavisualize.tumblr.com

背景とやりたかったこと

物理的な距離とは違う距離についてと、人の移動について

「物理的な距離とは違う距離」というのを表したかった。

物理的な距離的には近いはずなのに電車がなくて行くのに時間がかかる、とかあって「あそこは近いのに遠い」と思ったことがある人はけっこういるんじゃないだろうか。その時の遠いというのは「人の移動にかかる時間的に遠い」ということで、時間的な距離について語っている。他にもそういったものはある。「インターネットの情報が伝わる時間的な距離(通信距離)」とか、今回作ったような「そこに移動するための交通費的な距離」とか。

この、その場所にたどり着くための⚪︎⚪︎上の距離、というのは物理的な距離とは違ってくる。しかし、それでいて物理的な距離と完全に独立に存在しているわけではない。物理的な距離が遠ければ時間もかかるし、お金もかかるということが多い。物理的な距離は制約として作用し、影響を及ぼす。そういった、物理的な距離と関係を持ちつつ、それとは違うレイヤーの世界(情報)を認知できる形で表したい、地図にはそれができる、と思った。まぁというか、地図とはそういうものだ。「地図作りとは世界の編集」と書いていたのは「情報デザイン入門」*1だったろうか、全然違うような気もするが、まぁともかく、世界を別の軸で切った地図を作りたいと思った。

そこでテーマにしようと思ったのは「人の移動」についてだった。全国に交通網が張り巡らされ、新幹線が走り、羽田空港からは数分おきに飛行機が飛ぶ現代日本。江戸時代には江戸から伊勢に行くのに片道2週間程度かかったといわれるが、現代では3時間もあれば行ける。ずいぶん簡単に移動できるようになった。人の移動は増えているだろうし、増えたほうがたのしいなぁと思っている。おもしろい人に会えたりおもしろくない人に会えたりすごい景色見たりすごくない景色を見たりできるのは良い。人の移動を地図にすれば、物理的な制約が大きかった時代からの変化とか、物理的には遠いけど実は近いお得な場所とか、これからもっと近くするべき場所はどこかとか、どうしたらもっと近くなるのかとか、わかるんじゃないか。いいじゃん。

人の移動から、交通費地図へ

で、人の移動について考えた時、移動を「コスト」から見るべきだろうと思った。移動のコストを分解すると、時間コスト・費用・心的コスト(あと手配コスト(調べたり切符買ったりとか。)もあるが、でもまぁ日本国内であればあまり差がなさそうなので無視)の三つが重要なんじゃないかと思った。

時間コストについて。移動の最中でもPCやスマホなどがあれば仕事も遊びもできる現代では、移動時間に対する重要性は(あくまで相対的にだが)下がっているのではないかと思い、時間地図を作るのはやめた。なにより、時間コストについては時間軸変形地図というものや、その他にも幾つか作られている。他の人が作っているならまぁ作らないでもいいかな、と思ったのが大きい(表現の仕方や切り口など作る余地はまだまだあると思うんだけどまぁ気分的に)。

心的コストについては元とするデータの収集が困難そうだ。使いまわせるデータは落ちていなさそうだったし、自分で収集するには個人個人のばらつきが大きくて、客観的なデータとして扱うにはどれだけデータを集めればいいんだという感じがする。無理。

ということで費用(=交通費)を軸とした地図を作ることにした。時間コストと費用を掛け合わせることも考えたが、掛け合わせ方にあまりいいアイデアがなかったのでやめた。(書きながら変形しない表現なら可能だな、と思った。色での表現とかいいかもな。)

データの取り方について

批判的なコメントで多かったものに「⚪︎⚪︎に行くのにはそんなにかからない」「ある交通手段が考慮されていないので信頼できない」といったパターンがあった。この手の問題は、データ作りの方針を決める際にも議論された。まず、どこまで交通手段を含めるのかその範囲について、そしてデータを得る手段について。

交通手段については、公共手段に限り、鉄道、バス、飛行機にした。コメントに「格安バスの料金になってしまうので格安料金なしバージョンも見たい」というものがあった。確かに、実際に移動をすることを考えた時に、より広くの人に使われるであろう手段に絞り、鉄道と飛行機にする、もしくは「移動時間が6時間を超えない手段のみにする」としたほうが実用性はあるかと思う。ただし、この地図は実用性を考えておらず、驚きや発見を重視したかったので、安さを優先した。また、バスや鉄道だけでは距離に比例する要素が大きく、意外性のある結果にならないのではないかという予想があったため、飛行機は絶対に入れたかった。

では、その鉄道、バス、飛行機の料金データをどうやって得るか。そもそも新宿からの各地の交通費のデータなんてものは落ちていない。交通費を扱うAPIを探したのだが、無料で使えるものは残念ながら見つからなかった。そこで、乗り換え系のサービスを利用することにした。ここで問題が出てくる。1.扱われている会社が限られている2.時期・時間によって交通費が異なることだ。

  1. 扱われている会社が限られている 今回利用したジョルダンではLCCや一部の格安バスなどは検索結果に出てこない。しかしこの地図を作るにあたってはLCCは欠かせない要素になる。苦肉の策として、飛行機のみ航空券横断検索サービスを利用することにした。ちなみに運行会社の取扱範囲が知りたかったのでジョルダンに問い合わせているが、まだ回答はもらっていない(9/26現在)。

  2. 時期・時間によって交通費が異なる 飛行機の運賃が時期や搭乗までの日数で大きく変わることはイメージできるだろう。鉄道やバスも検索時間によってことなった経路を案内し、結果料金も異なってくる。理想的には日にちや時間を自由に指定できるような地図にしてやればいいんだが、APIもないし、作るのに時間がかかってしまう。また、複数の結果を出し平均するといった手もあるが、それだって正確な値になるわけではない。今回は割り切って、オフシーズンと言われた10月の特定の日にち特定の時間の検索結果で作成することにした。

表現手法について

時間地図の事例

杉浦氏の時間地図

時間地図については杉浦康平さんの時間地図(1977)というものが有名だ。時間によってメッシュ変形をさせた日本地図である。このダイナミックな変形はえらいかっこいい。今回の交通費変形地図についても当初この手法を利用するつもりだった。

しかし、この時間地図は読み取りがわりに難しい。ダイナミックな変形ゆえに、元々の日本の地形と代表点の位置関係を知っていないと、どのような変化があるのかわからなくなってしまう。玄人向けの地図だと思う。(ちなみに全く批判してない。今この記事のために見直してもやはりすごいし、このレベルまで到達したいものだと思う。ちなみにこの時間地図のモデル化は3次元的で行われていて、時間による空間の歪みが「空間のシワ」という形で表されている。クソかっこいいのである。VR空間でこの空間のシワの中に立ったり外から愛でたりしたい。*2

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Yahoo到達所要時間ビジュアライゼーションマップ

また、比較的最近では、Yahooの到達所要時間ビジュアライゼーションマップがある。色でかかる時間を表しておりわかりやすく、正確性が高く作れる。動画もわかりやすいしクオリティが高く、さすがだなぁという感じだ。

docs.yahoo.co.jp http://i.yimg.jp/i/docs/bigdata/special/2015/map_02.png

ただ綺麗でちゃんとしているものは概して「へー」「きれい」で終わってしまいがちというか、なにを読み取ったらいいか見た人に左右されるところがある。あと作る方としてはもっとおもしろい感じでやりたさがあった。

今回の手法

見る人の目を引き、読み取りにコストがかからず驚きや発見があり、かつ伝わってほしいことは伝わることを目指すために、一目で伝わる、インフォグラフィクス的な手法で表現することにした。(いやまぁほんとは杉浦氏の時間地図とかYahooのやつみたいな、公平というか、見方をあまり限定しないでフラットに表現して、見る人が独自に読み取っていく作り方のが良いと思っている。思ってるんだけど、これだけコンテンツにあふれていて、しかも一目で読み取れるようなコンテンツに慣らされてしまっている私みたいな人間はたくさんいる世の中だと、読み取りにコストかかるコンテンツなんて飛ばして他のコンテンツを見に行くだろうと思うし、それなら引っ掛かりを作ることで見てもらって、そこから「そういう見方もあるのか」と思ってもらえる方がマシかなと思っている。)

多くの人に馴染みのある各都道府県の形はそのままに、代表地点の場所を元に位置を動かした。代表地点までのベクトルに対し、交通費の値を係数としてかけて移動させる*3。わかりやすいように金額距離の同心円を補助としてつけた。また、元々の地図との違いを際立たせるために変形前の日本地図を背景に含めている。変化率については、東京都沖縄の位置が固定点になるように作成した。しかしこの点についてはコメントでもらった指摘のとおり、変化後に一番遠い県か一番近い県が背景の日本地図の元の位置と一致するように作った方がわかりやすかっただろう。まだまだである。

ちなみに今回代表点の移動に関してはQGISで行った上で、各県の移動については代表点を元にイラストレーター上で手作業で行っている。47都道府県だからまぁいいが、多くなってくると対応できないし、自分らの手間を減らすためにももっとツールとか技術とかで対応できるようにしたい。技術も知識もなくてつらいなーって思うしもう少しさくっといろんやなことが入ってくる頭だったらよかったのにな、とは思うがまぁしかたないしちまちまやっていく。

コメントとかについて一部

交通費が正確でない、というコメントについて

「もっと安い!」というコメントは多かった。確かに、ソーシャルでより安い料金情報を収集したが、けっこうな乖離があった。まぁ作りが荒いというのはその通りなのだけど、結構大変なのだ。初めに出したものについて、間違っている、と言われることもあるが、(ごめんほんとに間違ってたところもあったけどそれはちょっとおいておいて)間違っているというより「⚪︎月⚪︎日に検索はジョルダンとトラベルコちゃんしか使わずに調べた人の⚪︎月⚪︎日の日本地図」として見てくれると優しい。

今回の地図を作ったことやもらったコメント、ソーシャルで収集した情報を見て、より納得感のある最安値のデータを作ることの難しさと、交通費的距離の流動性について認識を強くした。交通費的な距離は、時期・時間的な流動性はもちろん、その人の情報へのアクセス(環境・スキル)によって距離が変動する性質がある。時期(時間)をもう1軸もち、動画かインタラクティブWEBサイトとして作ると、「(交通費)距離とは変動するものだ、物理的な地形からみると距離というのは固定されているようだが、実は常に動いている」という表現と認識ができておもしろそうだ。やりたい気持ちはある。(めんどくさくて尻込みする気持ちもある)。

より批判的なコメントをする人に対して

風評被害と言っている人に対して言いたいのだが、多分東京から遠い地方の人だと思うので、自分で、自分の地域を中心として作ってみてはどうだろうか。東京から近いとか遠いとかいってるのはダサいというか、現実にそうなるのはわかるけども、そんなこと言ってるだけじゃますます滅ぶだけじゃねぇかという気持になる。その地域を中心とした地図を描くことで、東京からは遠いけど他の都市圏にはめっちゃ近いとかむしろ台湾が近いとか、都市からは遠いけど周辺が非常にコンパクトにまとまっていて住みやすいとか、なんかそういうのを発見して広めて欲しい。

批判より、「お前のやつここがダメだからこうしてやったぜ!」って作ってくれる方が、批判される方としても納得感があるし嫌な気持ちにならないし、こう、建設的で明るい世の中になると思うので、手を動かしてくれ。それができないならせめて建設的な形でコメントをください。(ただし、もし本当に具体的になにか被害があるという場合には取り下げる用意はある。元サイトの連絡フォームでもこのブログでもいいので連絡をください。)

そういえば私の観測範囲の中では、東京中心であることを批判している人はいなかった。意外。

やりたいと思っていること

二次元の変形でなく高さ方向に変形させた、交通費標高地図を作ってみたい。全国駅版の方でやってみているのだが、駅単位だと標高の表現としては弱い。メッシュを切ってメッシュごとに交通費を出せばいいのだが、公共交通機関が近くにない場所についての処理など、悩ましい部分もある。あと、そろそろ同じネタでやるのも飽きてきたので、ちょっと時間をおきたい。

あと前述したが、インタラクティブにしたい、というか、「時間軸」と「中心点」をいじれるようにしたい。特にこれは日本だけでなく世界でやるとおもしろいと思う。ある程度役にも立ちそうだ。D3.jsとかでやればいいと思うんだが、前やったときめっちゃつまったのでどうしようかなって思っている。先生が欲しい。

さて、やりたいことはいろいろあるのだがまぁ実際作るのは結構めんどくさいし、手間も時間もかかる。無職がなにをいっているんだというかんじもするが、なにしろあまりエネルギーがないので、自分たちだけでなくいろんな人がいろんな感じで作ってくれるといいな。 あとこの地図を一緒に作ったYさんCさんに感謝を。

*1:良い本。新書で読みやすい。最近の本ではないが、十分に読める。中古品1円とかで出てるんだけど絶対それ以上の価値はある。

*2:画像は誠文堂新光社「idea 324」より引用。写真撮ったらボケた。

*3:単純な2次元ベクトルとして計算しており、地球の楕円球を考慮した計算はしていない